厚生労働省は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示(37号告示)」において、請負事業の条件を具体的に示している。「37号告示に関する疑義応答集(厚生労働省)」は、以下のような事例については偽装請負にあたるとしている。
「発注者が直接、請負労働者に作業工程の変更を指示したり、欠陥商品の再製作を指示したりした場合(2.発注者からの注文)」
これは作業員が従事していた「VIP対応」や「下着回収」がよい例だ。
なお厚生労働省は同基準において
「管理責任者が休暇等で不在にすることが有る場合には、代理の者を選任しておき、管理責任者の代わりに権限を行使できるようにしておけば特に問題はありません」
としている。
だが、同時に
「ただし、管理責任者が作業者を兼任しているために、当該作業の都合で事実上は請負労働者の管理等が出来ないのであれば、管理責任者とは言えず、偽装請負と判断される(4.管理責任者の兼任)」
と明確に述べている。
この件では、まさに下請会社の管理責任者は作業者を兼任している。そのため事実上作業員の管理等ができない。
「発注者と請負事業者の作業内容に連続性がある場合であって、それぞれの作業スペースが物理的に区分されていないことや、それぞれの労働者が混在していることが原因で、発注者が請負労働者に対し、業務の遂行方法に必然的に直接指示を行ってしまう場合は、偽装請負と判断される(5.発注者の労働者と請負労働者の混在)」
これはまさにそうである。作業員が所属していた班は、発注者である元請け企業の社員と、作業員を含む下請会社の作業員が同じ場所で作業することを前提に構成されていた。そのような班構成で作業をするのだから、作業現場ではとうぜん発注者である元請け企業の指揮命令下で働かざるを得ない。
「工場の中間ラインのひとつを請け負っている場合で、一定期間において処理すべき業務の内容や量が予め決まっておらず、他の中間ラインの影響によって請負事業主が作業する中間ラインの作業開始時間と、終了時間が実質的に定まってしまう場合など、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っているとはみなせないときは、偽装請負と判断される(6.中間ラインで作業する場合の取扱)」
これも作業員の件に当てはまる。
たとえばサーベイ作業は他の作業との関係でしか作業時間を決められない。他の作業の進行によってサーベイ作業の進行は決まってしまうのである。だから下請け企業が自らの業務の遂行に関する指示その他の管理を行なえるわけではない。
「発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法などの指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断される」「こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断される(7.作業工程の指示)」
まさにこれが作業員の経験してた日常である。
これまでも述べてきたように、VIP対応など個々の作業のやり方やその変更は統括責任者から指示されていた。またマスク交換のやり方についていきなり統括責任者が「立ってろ!」と作業員を罵倒したこともあった。日常的に作業者証はかならず元請け企業が管理し、「言われる前に動け」との指示も元請け企業社員からされていたのである。
「製品や作業の完成を目的として業務を受発注しているのではなく、業務を処理するために費やす労働力(労働者の人数)に関して受発注を行い、投入した労働力の単価を基に請負料金を精算している場合は、発注者に対して単なる労働力の提供を行われているにすぎず、その場合には偽装請負と判断される(8.発注量が変動する場合の取扱)」
これも問題だ。元請け企業は「明日の人数を減らして」と指示を出し、それを受けて作業員が勤務を減らしたことがある。成果物の納入ではなく、労働力の提供を求められていたのが実態だ。
「請負労働者に対して発注者が直接作業服の指示を行ったり、請負事業主を通じた関与を行ったりすることは、請負事業主が自己の労働者の服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行っていないこととなり、偽装請負と判断される(9.請負労働者の作業服)」
元請け企業からの作業服の指示もある。
放射線防護衣である「タイベック」にはいくつかの種類があるのだが、それを高価な「デュポン」から安価な「3М」に変更するように指示したのは元請け企業の統括責任者だ。それ以降、元請け企業傘下の下請けのタイベックは「3M」に変更されてしまった。
「請負業務の内容等については、日常的に軽微な変更が発生することも予想されますが、その場合に直接発注者から請負労働者に対して、変更指示をすることは偽装請負にあたる(11.請負業務の内容が変更した場合の技術指導)」
下着回収、サーベイ対応、VIP対応、GM管の使い方、待機の扱いの変更などなど、どれもこれも元請け企業からの指示だ。したがって会社と下請会社間の請負契約は単なる形式であって、その実態は偽装請負として評価されるべきものである。