2013年5月10日金曜日

作業を過小評価するな

原子力企業は作業員の業務を徹底的に過小評価している。

「発電所内で作業する者らに対する、いわば後方支援や補助のための簡便な作業」


これが元請け企業側の言う収束作業員の業務である。発電所内で作業し、事故以前の放射線管理員が2年間で被ばくする線量を1カ月で浴びる仕事。公務員であれば人事院勧告に従い危険手当の支給対象となる作業である。これを「後方支援や補助のための簡便な作業」と企業側は描き出し、作業を徹底的に過小評価している。

【扉開閉操作】
「入口内扉、外扉に1名ずつが配備され、それらが同時に解放しないように、作業員が手で合図を送り、内、外扉の開閉をするというもの」


実際はそんな単純なものじゃあない。
放射性物質が流入しないように細心の注意を払いながら、かつ元請け社員の判断でひんぱんに変更になる作業方法に合わせなければならない。そのため、作業員は複雑な対応を迫られる。

たとえば多い時で週に5、6組の外部視察が入る第三工区を担当する際の扉開閉操作はとても複雑だ。

例をあげよう。
ある作業員が第三工区の内ドア管理をしていた時に、VIP(調査に訪れる人々や東京電力の社員を現場の作業員はこう呼んでいた)が来訪した。そのときの対応が、元請けから「不十分である」とみなされたことがあった。外ドアの管理していた下請け企業の作業員が、そのVIPの対応をしなかったのだ。

なぜしなかったのか。
単純な話だ。その人は自分の仕事である外ドアの管理をしていたからである。

ところがこれを見た元請け企業の統括責任者は激昂した。

「なにあいつ、ぼーっとつっ立ってんだよ、これだから×社は常識知らねえな」

その作業員は「外ドアの管理がありますから」と答えた。

すると統括責任者は

「ドアの鍵を閉めてVIP対応すりゃいいだろ」

と怒鳴りつけ、その場で仕事のやり方を変えてしまったのである。

作業員は自分の会社の従業員のみならず、第三工区の扉開閉操作に携わる他社の作業員にもその旨を伝え、それ以降は、外ドアの管理をしている作業員も、VIPへの対応をすることになった。

また、専用の装備をつけないVIPに対し、他の作業員が注意を促したことがあった。
ところが全面マスクをしているVIPには音が聞こえない。そのため、その作業員はVIPの身体に触れて注意を促した。それを見た元請け企業の統括責任者は内ドアの開閉をしていた作業員を呼びつけ、

「おいおい、あいつ何ひっぱんてんだよ」

と吐き捨てるように言った。

作業員が「あの人が間違った装備だったので呼び止めたんじゃないですか」と答えると、統括責任者は

「また×社かよ、なってねえな。あいつ誰!」

とわざとらしく聞こえるように舌打ちし、×社の社員を呼び止め連帯責任をちらつかせ詰問したのである。

このため作業員は以降、VIPには触れないように、他の作業員に周知することになった。

さらに、到着したVIPごとに順次、装備をチェックして外部屋に送り出すことになっていたそれまでのやり方が、元請け統括責任者の指示によりとつぜん変更された。VIPを順次送り出すことをやめ、VIPが全員そろうまで内部屋で待機させ、そろってから外部屋に送り出すようになったのである。

一方、直勤務シフトの際には、作業員は第一工区、第二工区の扉開閉操作に従事した。この仕事を元請け企業は、「ドアごとに1人の作業員が配置されている」と説明しているが、実態はまったく違う。

例えば第二工区には、内、中、外と3つの扉があり、時間帯によっては扉開閉操作に2名の作業員しか配置されない。特に、東京電力がサーベイ時間の短縮を求めるようになってからは、内ドアの開閉作業は、サーベイ業務と兼ねることになった。

また、外ドアもしくは中ドアの担当者は、ゴミ捨ての業務にも従事していた。内ドアの担当者がサーベイ業務に従事しているときに、中ドアの担当者は、内、中、外の3つの扉を管理しなければならなかった。

第一工区の場合、時間帯によっては内、外2つのドアを一人で管理しなければならない。元請けの社員が同じ工区にいる時には、これらの業務をいつ、どのようにこなすのかは、元請の社員の指示に従っていた。

このように、会社側の説明とは異なり、扉開閉操作は、時間帯、状況に応じて業務内容がかわる複雑な作業であり、元請け企業の社員の指示に従って行われるものであった。

【脱衣補助】
「発電所内作業員がビニール製保護衣を脱ぐ場合に、背中の部分にハサミを入れて脱ぎやすくするもの」


これもずいぶんと単純化している。

「ビニール製保護衣」とあるが、カッパとアノラック(汚染水処理や建屋内などの高汚染区域での作業に従事する作業員が、タイベックの上に着用する保護衣であり、極めて汚染量が高いもの)のことである。
ハサミを入れるのも背中だけではない。背中、フード部、ならびに両脚の外側部分の3か所であり、作業は「脱ぎやすくする」のみならず、汚染を広げないよう慎重に脱がし、回収し、廃棄することまで含む。また、タイベックの両袖、両足首、およびフード部分にされた目留テープをはがす作業も含まれる。

【装備回収】
「発電所内作業員が脱いだ靴下や靴カバー、タイベック等の装備品を回収して、廃棄すること」


回収する装備はこれだけではない。元請け企業が列挙するものに加え、軍手、綿手袋、ゴム手袋がある。また、作業で生じた様々なゴミの回収、廃棄も行なっていた。これらは、いずれも放射性物質に汚染されたものである。

【スクリーニングサーベイ】
「発電所内の現場から戻ってきた作業員の身体及び携行品に放射性物質が付着していないかを、二人一組になって、専用の器具(GM管)で測定するというもの」


ちょっと待ってほしい。
実際は、二人一組の作業ではない。
時間帯によっては一人しか配置されず、前述したように、ドア開閉操作を担当する者が兼務して従事しなければならなかった業務である。

作業員は従事していたのに、元請け企業が認めていない業務もある。「連続ダストフィルターの管理」「元請け企業社用車の運転」「精密機械の搬入」などだ。それが例外的ではなく、日常的に行われていたことは、下請け企業が組合との団体交渉で認めていることだ。

【精密機械の搬入】「なし」


これは事実と異なる

作業員は「精密機器」というラベルが貼ってある、黒い合成樹脂性のトランク。奥行20センチ、幅70~80センチ、高さ60センチくらいの大きさ。黄色で文字が書いてあるものを、直勤務、日勤時の9時~10時の搬入・搬出時、月に一度くらいの頻度で、下着の搬入・搬出時に行っている。あれが「精密機械」でないのなら、中には何が入っていたというのか。

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【元請け企業社用車の運転】「交代勤務者の移動の便宜のため」


これだとあたかも元請け企業が下請け作業員の便宜を図って車を出していたかのようだ。では、なぜ元請け企業社員は何もいわずにいきなり助手席に座るのか。元請けと下請けの社員が同じチームに入れられたら、下請けは元請けに便宜を図って運転するしかない。

だいたい直勤務の先発シフトの帰りでは、フクイチに元請け企業社員が残らなければならないから、元請け企業の社員は車をジェイヴィレッジに戻すことができない。じゃあだれが元請け企業社用車をジェイヴィレッジの所定の場所に戻していたのか。下請け会社の作業員じゃないか。

元請け企業は車両の運転を作業員が「あることもあったという程度のもの」と過少に評価している。でも事実は違う。車は「元請け企業社員が運転することもあったという程度のこと」であって、下請け作業員の仕事とされていたのである。